管理人は量子物理学専攻の人間ではないので、間違っている可能性がないことはないです もし、なにかありましたらご連絡いただけると幸いです。
最近の量子コンピュータ事情
ここ最近の量子コンピュータ事情といえば、「D-Wave Systems」が開発した量子コンピュータが、トポロジカル位相遷移の実証に成功したことが有名です。
現在、主流となっている量子コンピュータは超伝導量子ビットと言われる擬似コンデンサの仕組みを利用したものです。しかし、別の演算方法として「トポロジカル量子コンピュータ」という方法があります。
量子コンピュータとは
そもそも量子コンピュータとは、量子力学の法則に乗っ取り、「高速、超並列計算」を行うことができる新たな計算原理のことです。この量子コンピュータの基本素子は「量子ビット」と言われています。この量子ビットの実現には、量子状態という究極状態での制御が求められます。
ビットと量子ビット
情報の世界では「ビット」というものが存在します。ビットとは「0 or 1」で物事を表現するため2通りしか表現することができません。しかし、「量子ビット」は1量子で2通りを表すことができます。
つまりn量子ビットは 状態を表すことができます。
3量子ビット(n = 3)とすれば8状態となります。
量子ゲート回路
量子ゲート回路の例として量子位相推定アルゴリズム(Quantum Phase Estimation)というものがあります。 量子位相推定アルゴリズムとは、ユニタリ行列の固有値を量子コンピュータによって計算するためのアルゴリズムです。
まず、ユニタリ行列 は、その固有値を必ず複素平面の単位円上に持ちます。また、その固有値を で表すことが可能です。つまり、この行列の固有ベクトルの一つを とすれば
と表せます。
この固有値 の位相を量子コンピューター上で近似的に求めるのが位相推定アルゴリズムです。
位相推定では、を qubit の1、0によって2進数的に表現します。つまりは、をで規格化して2進小数表記にします。
この各位の数字 0 or 1を持つ状態を生成することで、計算できたこととします。このqubitらを測定すればユニタリ行列の固有値が2進小数表記で求まるということになります。
よく聞くのはShorの素因数分解アルゴリズムですかね...。(たぶん)
超伝導量子ビット
超伝導量子ビットとは量子力学を超伝導を利用してミクロサイズの回路でも利用しようというのが目的です。 仮に左回りを 右回りを します。日常的な世界では左回りと右回りは同時には存在できません。しかし、量子力学の世界では存在することができるのです。左回りも右回りも同時に存在することのできる状態が「重ね合わせ状態」と言われています。
また、超伝導ループを貫く磁束は磁束量子の整数倍に限られる性質があります。ここで磁束量子の半分の磁束を外部から与えると、磁束を強める と 磁束を打ち消そうとする が現れます。
ここで超伝導量子ビットの基底状態を とすれば と表すことができます。
また、第1励起状態は と表されます。
ここで から にするために必要なマイクロ波の強さをW, 持続時間をTとします。
にW, Tを与えた場合 は の状態に遷移します。
では、どちらか一方のパラメータを半分にするとどうなるでしょうか。 に0.5W, Tを与えた場合 は の状態になります。
つまり、与えるマイクロ波を調整することにより、状態を変化させたり重ね合わせ状態を作り出すことができます。
コヒーレンス
しかし、量子ビットを用いて計算を行う場合(特に複数の量子ビットを用いて並列処理を行う場合)に重要になるのが「量子コヒーレント状態」を維持できるかどうかです。「コヒーレント状態」とは、お互いの量子が鑑賞を起こさない状態のことをいいます。この状態が崩れることを「デコヒーレンス」といいます。デコヒーレンスとは、量子力学において、「量子力学的重ね合わせ」と言われる状態が、外的要因により破壊され、量子上の情報が失われることをいいます。デコヒーレンスの要因としては、いくつもあげられ「磁場揺らぎ、電荷揺らぎ、回路ノイズ、光子」などがあげられ、これらの要因を解消していくことでコヒーレント時間を伸ばすことができます。
今のところ、年を追うごとにコヒーレンス時間は伸びてきています。対策として「電荷雑音耐性向上、電磁場モードの閉じ込め、高周波騒音シールド」などなどです。
トポロジカル量子コンピュータ
トポロジカル絶縁体
量子物質で電子の状態に幾何学的性質を持つ特殊絶縁体です。例えば0か1で「穴が空いている」「穴が空いていない」を判断する指標をトポロジカル不変量と呼びますが、真空のトポロジカル不変量とトポロジカル絶縁体のトポロジカル不変量が異なるので、辻褄合わせが必須です。その特殊性質が絶縁体の表面に現れるため、それを用いて量子計算に利用することが考えられます。
トポロジカル超伝導体
強スピン軌道相互作用を有する1次元ナノワイヤーと超伝導体を接着し、スピンレス1次元カイラルp波超伝導に匹敵する近接効果超伝導を実現すると「マヨラナゼロモード」という質量が0のマヨラナ量子がナノワイヤーの端に現れるとされています。このマヨラナ量子を用いた量子計算を利用するのがトポロジカル量子コンピュータと言われています。
マヨラナフェルミオン
マヨラナフェルミオンとは、E.Majorana氏によって理論的に提案された粒子で、粒子が反粒子と同じという特殊性質を持つ粒子です1。
ディラック方程式
の実数解として存在し、この解で表される粒子と反粒子は電荷を持たなくなります。また、非可換統計という、左右を交換すると状態が変化するという特殊な性質を持ちます。数学的には実数であるため複素数表現の通常のフェルミオンの半分とみなすこともできます。この実数解の存在を理論的には示すことができているが、実際にそのような性質を持った粒子は八景んされていません。
非可換統計
数学において、ある台数に従う要素演算が順番を問わない時、これらを「可換である」といいます。一方で、交換法則が成り立たない場合は「非可換である」といいます。n * n行列(n > 1)は一般的には非可換です。
ここで、非可換統計とは、ある種の粒子が従う統計性のことを表します。3D空間では、粒子の統計性はボーズ統計とフェルミ統計に別れていて、それらの統計性に従う粒子はそれぞれ、ボソン、フェルミオンと呼ばれます。ある2つの粒子を交換した時、ボソン系では波動関数は変化しませんが、フェルミオン系では負号が付けられます。
しかし、2次元空間の場合は波動関数が交換に使われる軌道に依存することから一般的な位相項が付きます
マヨラナ粒子は非可換統計の性質を有するため、その性質を利用して複数のマヨラナ粒子を並べ位置交換を行い、最終的に測定を行うことで量子計算を行います。この位置交換には組紐理論と非可換統計を組み合わせて量子ゲート操作に対応する行列演算を行います。
組紐理論
組紐とは、垂れ下がる田んぼんかの紐を適当に編んで作ることのできる図形を抽象化した通学的対象です。組紐全体の集合が群をなすこと
- 紐を連続的にねじっても集合に入るはず。紐をねじるという操作に関して、閉集合です。
- 結合則が成り立つ
- 単位元が存在する(ねじれがない)
- 逆元がある(逆方向にねじる)
ここで、紐が2本の組紐群は無限巡回群です。
幾何学的対象の絡みを表す様子として、次元数が低いことから、様々な分野で利用されます。
図のような、 を2本の紐で連結するとします。この場合、どちらの紐が上下になるか、によって2通りあることになります。
ここで組紐語を定義します。定義の方法として、2つの紐が交差する時、どちらの紐が上になって交差しているかによって表現を変えることにします。
左図のように左が上になる場合を で表し、右図のように右が上になる場合を で表します。
つまり以下は と表すことができます。
参考文献
-
E. Majorana. Teoria simmetrica dell’eletrone e del positrone. Nuovo Cimento, 14,171 (1937)↩